共通点なんてお腹の空き具合ぐらいでいい
「花束みたいな恋をした」という映画を好きな女の子と見た。
この映画の前半部分、見るのがつらくて…というのも、退屈だったというわけではなく。恋に落ちていくシーン、2人の価値観が同じであることが、同じ作品が好きという事実の発見の連打で表されて…。
麦くん(菅田将暉が演じる子)の部屋の本棚にAKIRAが並べられているのを見て、僕が好いている女の子は、僕の方を向いて笑った。
大して好きでもないのに、僕がAKIRAを本棚に並べていたことがあるのを知っているからだ。
僕は典型的な「〇〇が好きな自分が好き」という感情に浸る不届き者で、かつては一丁前に「私よりも私と呼ぶべきガール」との恋を追い求めていた。
麦くん、絹ちゃん(有村架純が演じる子)は、本当に、真に、作品に出てくるカルチャーが好きかもしれないから、重ねるのは失礼かもしれないけれど…ともかく同族嫌悪的な感情を抱いたわけで。どうやらこれからの僕は、分身を求めるような恋をしないつもりらしい。「私よりも私と呼ぶべきガール」=「自分の分身のような人」とは限らないことにはもう気づいた。
僕だって、典型的な「〇〇が好きな自分が好き」という感情に浸る不届き者だったけれど、舞城王太郎はやっぱり好きで、ナンバーガールも好きで、他にもいろんなものがちゃんと好きで、今でも自信を持って、嘘偽りなく好きと言えるものはたくさんある。
坂元裕二も大好きで、この映画も好き。
(イヤホン、靴、「価値観が広告代理店」「じゃあが多い」…etc)
だけど、僕の隣に座った女の子がこの映画を好きでも、嫌いでも、どちらでもよかった。
分身のような相手と出会い、恋が成就するのもすてきなことだけれど、あの子もコレが好きだったなってふとした瞬間に思い出してしまう、花束のような恋もすてきだけれど、
映画館を出たとき、時刻は20時ごろだった。
「お腹すいた?」
「お腹ね、パンパンではないくらい」
「私もお腹いっぱいってわけではないよ」
「…やっぱりねえ、共通点なんてお腹の空き具合ぐらいでいいよ」