ファッションショーしてね

『パーム・スプリングス』という映画を好きな女の子と見た。簡単に説明すると、ある1日を永遠に繰り返すループにハマった男女のお話。たとえ死んでも抜け出せないループの中で出会った2人は、自らが孤独にならないために相手を欲するのか、それとも真にその人を好いていて欲するのか。

軽く感想を交わしたあと、いつしかまどろみに耽ってしまったその明くる日は、僕らが一緒に住み始めてちょうど1年経つ日だった。数日前に僕が「記念日だね」と言ったとき、僕の好きな女の子は「覚えてたんだ」と目を輝かせた。ナメられたものだ。僕の愛情を低く見積もりがちなので、その辺は直してほしい。

記念日といっても、その日は特別なことをする予定を立てていなかった。しかし休日でもあり、せっかくなので出かけたい。僕の好きな女の子が「この時期に着る服がない!どうしよう!」と最近騒ぎがちなので、その悩みを解決するべく、僕たち秋服探検隊は原宿へと向かった。

原宿という街はなかなか不思議で、ここは原宿だと思いながら歩いてるといつしかそこは表参道になっている。その逆もある。街から街へと向かう時、大概は人通りの少ないエリアを経由しなければならないが、原宿–表参道間にはそれがないからだろうか。それとも僕に土地勘がないからだろうか。おそらく、好きな女の子に聞いたら後者と即答されると思う。僕は時折、いや結構な頻度で方向音痴を発揮して困らせている。

「会社にも着ていけるし、普段着としても使える服が欲しい」とのことだったので、2人して「カワイイ!」と思わず吠えたFILAのトレーナーは見送った。しかし、その後も僕は懲りずに、ある店の入り口の脇にいたマネキンが着こなしていた、会社に着ていくにはビビットすぎる黄緑のニットに目を奪われてしまった。

「男性物だけでなく、女性物にも興味を持つようになった」。これを僕の中にある世界の言語に意訳すると「好きな人がいる」ということになるようだ。

僕の好きな女の子は自らの身体にジャストフィットし、なおかつオフィスカジュアルとしても通用するデザインの3点ものお洋服を選んでいった。濃い青のパンツをあてがいながら、「私のためのパンツじゃん」とはしゃいでいたのはかなり可愛らしかった。しかし諦めの悪い僕は、「これは払ってあげるから」と言って、黄緑ニットもレジに連れていくようにお願いした。FILAのトレーナー含め、一目惚れしたものすべてを買ってあげられる財力があれば……。申し訳ない。けれども、持っている幾ばくかの財産をやりくりして、2人で日常を楽しむのも悪くないものだ。

帰路に着く電車の中で「帰ったらファッションショーをしてね」と言うと、はにかみながらうなづいてくれた。

途中下車して良さげなワインバーに寄り、ちょいと酔いどれ気分になってから、僕らは家にたどり着いた。そして、購入した服のタグを切り終えたことをきっかけに、僕の好きな女の子はファッションショーが始めた。ヨギボーにどっかり座りながら、「回ってごらんなさいよ」なんて生意気な言葉を吐きながら、それを楽しむ夜。特別ではないけれど、いい日になってよかった。
もしループをしなければならないのなら、こんな日でもいいなと思う。しかし、もうすでに真に好いているから欲しているのだとわかってしまっている僕には、物語によって教訓が与えられる必要がないので、きっとそんな事件は用意されないと思う。