なんでくれたの?
アウトプットもろくにしていないくせして、僕はコンテンツホリックなので、サブスクリプションサービスの加入数が多い。何かを見ながら、もしくは聴きながらでなければ、皿洗いもできないから、その中毒っぷりに呆れられることもある。次から次へと見たいものが溢れていくので宿題は山積みだ。誰かとその体験を共有したいタチなので、毎日のように好きな女の子と予定を合わせて、プロジェクターのある寝室に集合する(それぞれ自分のしたいことが多くててんてこまいだから、同じ家に住んでいても予定を合わせる必要がある)。
ありがたいことに、好きな女の子は、僕が夢中になっている事柄に興味を示してくれることが多い。こないだなんかはスパイダーマンの新作が公開されたことをきっかけに、MCUの履修を始めてくれた。これからも数年続くであろう渦の中に一緒に飛びこむこととなったわけだ。とりあえずはGotGに辿り着くことを目標にしてほしい。僕はスターロードが大好き。
一昨日は一緒にドラマ「ファイトソング」を最新話までイッキ見した。たまたまザッピングしていて気になってしまい、見たいと騒いだら付き合ってくれた。ウチのレコーダーは優秀なので、新ドラマは数話分取り置きしてくれる機能がある。さすがは親戚一同からかき集めた大学の卒業祝いで買った代物なだけはある。
それで、2人してこたつに足をつっこみながら見たわけだけど、なんといっても花枝(清原伽耶)と春樹(間宮祥太朗)の会話の作り方がすてきだった。会話から関係の温度が伝わってくる。2人が訪れたレストランに置かれていた鹿威しについて、春樹が花枝にその名前を教えてあげたシーン。
「そうやって教えてくれるの好きです」
「知っててよかった」
物知りであることは危険な長所だと思う。鼻にかけてしまうと途端に短所になるから。小学生の頃、卒業文集に載る、クラス内の物知り博士ランキングでトップを狙っていた時期、僕は嫌なヤツだったような。素直な人同士でなければ、教える・教えられるの関係は良好にならない。
そのあと、花枝が「鹿威し」をネット検索して、値段を調べて…。カップルってこういうくだらない会話を積み重ねていくものだ。「どんな会話するの?」と他人から聞かれて、事実をそのまま回答として提出できるカップルはいない。荒唐無稽な会話の繰り返しすぎて、とてもじゃないけど、公開できない。
ドラマの中で発生する出会いというものは、大概は運命的なもの。そしてそれには作為的な匂いがする。創作物なんだから当たり前だ。作曲者とそれに支え続けられてきた者との出会い。「ひょん」がすぎる。すぎるのだけれど、人間同士としての会話の匂いが充満しているから、遠くにいきすぎない。そして、セリフだけでなく、どもりかたなどの一つ一つの仕草がそれを助けている。清原伽耶も間宮祥太朗もすごいなあ。あと慎吾(菊池風磨)の清々しいほどの当て馬ぶりもサイコー。
で、今日…好きな女の子が僕が知らない言葉を教えてくれた。「ますます好きになったか?」と聞かれて、僕は素直じゃないので、「これに関しては横ばい」と答えた。
実際のところ、好きな女の子と一緒にいると、毎日が学びの連続で楽しい。先日は人生で初めて、味噌煮込みうどんを食べた。それはそれは素晴らしかった。そしてそのときは「味噌煮込みうどんは麺が硬いんだよ」と教えてくれた。「へぇ〜、そうなんだあ」とアホみたいに言う僕に、好きな女の子が自分の器に入った鶏肉をくれた。
「なんでくれたの?」
「愛だよ」
「なんでくれたの?」なんて聞いておきながら、どんな答えが返ってくるか分かっていた。好きな女の子は、自分から愛情表現をあまりしてこないので、こうやってたまに催促する。そして僕の催促もまた、愛情表現なわけで。